ORAL CARE AT OUR HOSPITAL 当院の口腔ケア
最初に問診を行ない、全身状態や投薬状況をお聞きしたあと、口の中の診査を行ないます。
口腔内の状態と他の疾患との関連を把握したうえで口腔内の処置を行ないます。
専門的口腔内感染コントロールを行なうとともに、歯垢(プラーク)の停滞しやすい場所の確認を行ないます。
さらに、個人個人の口の中の状態に合わせた適切な口腔清掃法の指導などを行ないます。
口腔ケア(口腔内細菌コントロール)と感染症予防
口腔ケアとは、口の中に常に存在している数百種類、数億匹という細菌を減少させるあるいは取り除くことで全身に引き起こされる細菌感染の可能性を低くすることをいいます。現在では、口腔ケアが誤嚥性肺炎や手術後の感染などの予防に有用であることが多方面で報告されており、各種感染症の予防・治療ガイドラインのなかでも口腔ケアを行なうことは高く推奨されています。
近年、医療技術の発達や社会環境の整備によりがんをはじめとしたさまざまな疾患において、有病者の口腔内合併症を抑制することが主病となる疾患の早期回復、入院日数の短縮、あるいは患者満足度の向上につながることがわかってきました。
現在、歯科医療に対して医科治療中の口腔内合併症の予防、口腔内環境の改善を求める治療依頼が増加しています。さらに、口腔内細菌叢と消化管、皮膚や生殖器などの他の器官に存在する細菌叢との関連についても明らかにされてきており、実際の医療現場では主病の治療前後に口腔内の感染源除去を中心とした口腔管理を行なうことで、口腔内のみならず全身的な感染症を予防する取り組みが行なわれています。また、感染源除去に加えて摂食嚥下、咀嚼、発音、などの口腔機能管理を行なうことで全身疾患の治療支援を行なうと同時に生活の質を高める試みも報告されています。
口腔ケアは、高齢者(とくに入院患者や介護施設入所者など)などを中心として誤嚥性肺炎や術後感染症などの感染症にかかる可能性の高い人たちに対して行なわれることが多くなっていますが、本来は細菌が蓄積する“口腔内構造(歯、歯周組織、舌、舌乳頭)”を持つすべての人に対して行なわれるべきで、「狭義の口腔ケア=口腔清掃」を行なうことが感染症予防にはとても有用であることがわかっています。これらの細菌は口腔常在菌(口の中に常に存在している細菌群、虫歯や歯周病を引き起こす菌もこの一部)とよばれ、口腔内には300~400種が生息しており、まだ培養されていない種も含めるとおおよそ700種にも上るといわれています。さらに細菌数は歯垢(プラーク)1mgに1億個といわれ、これは腸内の細菌数に匹敵する数です。
病気にかかってからではなく、健康な時から口腔常在菌を可能な限り少なく保つことが重要で、そのためには歯科医師あるいは歯科衛生士による定期的な機械的口腔清掃などを受けることが大切です。細菌が停滞しにくい環境を作り、また正しい口腔清掃方法の指導を受け、繰り返し習得することでその環境を維持することが必要となります。つまり理想的な環境とは「健常時より定期的な口腔ケアを受けることで、疾患にかかった際にも口腔内細菌量が最小限で維持され口腔の衛生状態が保たれていること」であり、その状態が全身および局所感染に対する最善の予防となるのです。
EFFECTS 口腔ケアの効果
咽頭細菌叢(咽頭部に定着
している細菌群)と口腔ケア
現在、超高齢化社会を迎えて高齢者の感染症が問題となっています。高齢者の多くが、免疫機能が低下し、感染しやすい状態にあったり、感染症の原因菌が抗菌薬耐性(“抗生物質”に対する耐性を持つこと=“抗生物質”が効きにくくなること)を獲得してきたりしていることが問題を大きくしています。とくに、高齢者では肺炎が死亡原因に占める割合が高く、なかでも誤嚥性肺炎が肺炎の発症に深く関与しています。
気道感染(主に肺炎)の予防に対する口腔ケアの効果を調べるために行なわれた研究によると、入院から退院までの間、口腔ケアを行なっていた人では何もしていなかった人に比べて咽頭細菌叢中に占める誤嚥性肺炎の原因となる菌の数が著しく少ないことがわかりました。さらに、口腔ケアが不十分な場合は咽頭細菌叢から緑膿菌、ブドウ球菌、カンジダ菌に加えて、歯周病菌が同時に分離される場合もあり、口腔内病原菌と咽頭細菌叢、誤嚥性肺炎とは強い関係があることが示されました。また、特定の分泌腺からの分泌物により組織、とくに肺や消化管、に損傷が生じる遺伝性疾患である嚢胞性線維症(CF:cystic fibrosis)でもこれらの細菌種がカギとなると考えられており、咽頭細菌叢の詳細な解析はさまざまな疾患の治療・予防につながる可能性が大きいことが示唆されています。
また、口腔内細菌叢によって引き起こされるう蝕と歯周病に代表される“口腔感染症”は、これまでは直接生命を脅かす感染症ではないという認識が強かったのですが、近年の基礎研究や疫学調査により、口腔感染症が誤嚥性肺炎に加えて、動脈硬化などの心臓・脳血管疾患、糖尿病、低体重児早産、骨粗しょう症、自己免疫疾患などのさまざまな全身疾患と関連することが明らかになってきています。
上部消化がん患者と健常者に
おける舌苔と口腔内
アセトアルデヒド濃度との関連
アセトアルデヒドは体内でアルコールが分解されて産生されますが、それだけでなく口腔内や消化管に常在する細菌や真菌の代謝によっても産生されます。このアセトアルデヒドには口腔がんや食道がんなどの上部消化器がんとの関連が指摘されています。
健常者と上部消化管がん患者を対象とした研究では、健常者、上部消化管がん患者ともに舌苔付着面積が広くなるにしたがって、口腔内アセトアルデヒド濃度も高くなることがわかりました。さらに舌苔付着面積が広いものだけに限定すると、口腔内アセトアルデヒド濃度は健常者で130.0 ppb、上部消化管がん患者で215.4 ppbあり、上部消化管がん患者で高い値を示しました。さらに上部消化管がん患者においては、歯の数が多くなるにつれて口腔内アセトアルデヒド濃度も高くなりました。
健常者と消化管がん患者の口腔内アセトアルデヒド濃度の差について、舌苔中の菌の種類、菌量、またその他の因子との関連が見られなかったことから、口腔内アセトアルデヒド濃度と上部消化管がんとの間に関連があるとことが示唆されました。
この研究では舌苔を取り除くことで口腔内アセトアルデヒド濃度が減少することが示されました。これにより、口腔ケアによって口腔内の細菌数を減少させ、アセトアルデヒド産生を抑制することが発がんのリスクを軽減できる可能性が考えられるわけです。